はじめに
「映像化=Visualization」それ自体は、決して新しい学習法ではありません。アポロ11号の月面着陸を同時通訳された西山千先生は、聞いた内容を絵にしてみるという指導をされていましたし、柴原智幸氏の『ヴィジュアライズで上達!長文リスニング』(NHK出版)も同じアプローチの学習法になります。ここでは私自身の今までの語学学習と教授経験を基に、英語での具体的な映像化の方法とその応用について書いていこうと思います。
学習者としての自分は洋楽と洋画が好きで、そこから英語の勉強を始めましたが、大学卒業後に就いた仕事では、ネイティブと対等に仕事をするには力不足でした。その後、通訳学校に通って痛感したのは、自分の単語力のなさ、定着していなかった文法力。つまり読解力が足りませんでした。そこから面倒だからと避けていた単語、文法、リーディングを(我慢して)勉強し直し「文字情報」を理解する力を強化。そこに洋楽で身につけた「音とリズム」と大好きな映画の「映像・イメージ」を加え、この3つを一体化して内容を理解するようになりました。そんな自分の経験から英語を教える立場となり、後にオランダ語の学習者となってからも、日本人学習者がリーディング、特に単語と文法学習に重きを置くことの価値を実感し続けています。
うれしかった時のこと。 悲しかった時のこと。 自分の心にあるそんな映像を相手と共有することで、互いが心から深く理解し合い、ひいてはそれが国籍などあらゆるものを越え、人と人とを結びつけていくことが出来ると思います。『文法からの映像化メソッド』が、ご家庭での日々の生活、学校や職場など、さまざまな場面での「言葉の壁」を越えるためにお役に立てれば幸いです。少し長めですが、最後までお付き合いください。
Secton1.日本人の得意な「イメージ力」と「読解力」をフル活用。
イメージ空間に、5W1Hで整理した情報を並べていく。
イメージ空間を作るのは、日本語でも英語でもオランダ語でも同じ作業です。そしてそれは「アニメ」に代表されるように日本の得意分野。東北の震災の後、節電を呼びかけるポスターのイラストが「言葉で表現されているよりも、優しさや気遣いを表現している。」と、海外でも話題になりました。また元同僚で現在フリージャーナリストのJudith Brandnerさんは、彼女の著書『Japan レポート3.11』(未知谷) の中で、“(日本人にとって)四季の移り変わりは何物にも変えがたい貴重なものである。毎晩のNHKテレビの終了時には、各地の美しい自然が紹介される。”と、日本人の桜や紅葉を愛でる感性について書いています。このように私たちのDNAには、このメソッドに欠かせない高い感度の視覚的能力が既に組み込まれています。
読解力、つまり5W1Hで情報を整理するために必要な単語と文法は、日本語と英語とでは大きく違うため必須学習事項ですが、これも中学校英語があれば十分、高校英語なら文句なしです。特にイギリス発祥と言われる5文型のSVOCの並べ方が、中心となる情報を正確に理解するために非常に役に立ちます。5つの文型はどれも、1番目にS(主語)、2番目はV(動詞)の順で並べます。
例えば、「メアリーはリンゴを食べる。」と英語で言うために、「Mary」「eats」「an apple」の3つの要素を以下の2つの違う順番で並べてみます。
パターン1:Mary / eats / an apple.// これは問題なく「メアリーはリンゴを食べる。」
パターン2:An apple / eats / Mary.// これでは「リンゴはメアリーを食べる。」ですね。
リスニングで単語が聞けても、「聞き取れた単語の順番を入れ替えてしまった。」、あるいは「順番なんて考えてもいない。」では正確な意味が出ません。「グラマティカル・リスニング=文法的に聞く」が出来ていないため、「リンゴはメアリーを食べる。」的な間違いをしている可能性があります。中学校や高校で学んだ単語や5文型などの文法をもう一度ぜひ復習してみてください。
~ イメージ力と文法力に磨きをかけよう ~
この2つの持てる力を活かし切る『文法からの映像化メソッド』で、語学学習法を見直してみませんか。
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Secton2.イメージ空間なら記憶が長くとどまる。
コツをつかめば、自分なりの映像化の方法が出来上がってきます。
何かを暗記する時、文字に頼りがちになりませんか。リーディングなら書かれている文字に目が行くし、リスニングでも目を閉じ集中しながら頭の中に「電光掲示板」を浮かばせ、音を文字にしようとしていませんか。文字は処理の過程には必要ですが、記憶にとどめるには数に限界がありますし、処理が遅くなります。やはり理解を記録するために、内容を映像化することをおすすめします。ニュースもラジオで聞くより、テレビで見た方が瞬時に理解できて、印象に残りやすいことが多いです。
実際の映像化の作業では、知っている単語や文法的に理解できた文章は即座に映像になるので、さほど難しくはありません。そして知らない単語や理解できなかった文章は、イメージ上は穴ぼこにしておくか、ぼやっとすりガラスのようにしておいてください。わからない部分に固執すると、特にリスニングではその先のわかる部分まで聞き逃したり、せっかく映像化した部分まで消えてしまいます。わからない部分は追わず、わかった部分を確実に映像で頭に残します。
5W1Hの中でも、イメージにしやすいのは、who, whatの情報で映像の中心に据えることが多いです。whenとwhereの情報は、whoやwhatの周囲に描かれ、場面設定を決めるのに大切です。
イメージしにくいのは、howとwhy。これらがどれだけ理解できるかは、正確な文法力でどれだけ内容を理解できたかが影響してきます。
~ 5W1Hの情報をいつもイメージにすると決めよう ~
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Secton3.イメージ空間を埋めるために必要な単語は「内容語」。
単語力で穴ぼこの少ないイメージ空間作り。
「内容語」と「機能語」というのを、聞いたことがありますか。
「内容語」は名詞、動詞、形容詞、副詞で、「内容を把握する」ためのキーワードになり、リスニングでは強く発音されます。この4つの品詞別になっている単語テキストもあります。
「機能語」とは、内容語以外の代名詞や冠詞、前置詞などで主に文法的な役割を担い、リスニングでは弱音となって聞き取りにくくなります。
イメージ力のためにいくらでも欲しい単語は、もちろん「内容語」。単語学習を楽しいという生徒さんは少ないのですが、覚えた単語が読んだり聞いたりしていて出てくると、「あ、これやったやった。」と、うれしくなります。
どの分野の単語を勉強するかは、自分がいつもいる場面、これからいたい場面をイメージしてそこで必要な単語を勉強するのが当然即効性があります。ただ忘れないでいただきたいのは、「基本単語」です。例えば英検の準2級くらいまで知っていると、日常生活やあらゆる資格試験のベースになる単語がカバーできると思います。
~ 誰もが必要な単語と、自分が必要な単語を毎日こつこつと ~
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Secton4.一文を正確に読むから、長文の速読も正確にできる。
どんな長い物語も、結局は一文が基本の単位だから。
単語と文法の約束を守って一文を文頭からきちんと処理すれば、その一文がたくさん書かれている長文問題や論文、ビジネスレポートや小説も正確に読めるようになります。時間がないからと飛ばし読みをしては、細かい部分の理解がおぼつかなくなったり、結局は何が書いてあるのかわからず、何度も読み直すはめになります。ならばまずは一文を1回できちんと読めるようにしてから、たくさん読めばスピードが速くなり、どんな長文も時間内に読めるようになります。
TOEIC®という資格試験をご存じですか。日本では多くの企業が社員の英語能力を図る基準にしています。そのリーディング試験のPart5は穴埋め問題と呼ばれ、一文の中に一か所空所( )があり、そこに当てはまる答えを4つの選択肢から選ぶ問題です。「時間内に解くためには( )の前後だけ見て答えるのが大事!」と、いわゆる「戦略的な解き方」を教える本もあります。確かにそうやって答えられる問題もたくさんありますが、空いているところだけ見ていつも解いていては、せっかくの一文を読むチャンスが失われてしまい、最終的には一文からなるパラグラフやパッセージを読めないことになります。上記のSection1でも述べたように、英語の単語は並んだ順番で、それが「リンゴは」になるのか、「リンゴを」になるのかが決まり、文章全体としての意味が出てきます。1番目なのか、2番目なのかは、先頭から数えていかない限りわからないのですから。急がば回れ。一文を1回読むだけなら、たかが数秒。文頭からピリオドまで順番にきちんと読めれば、意味が理解できて、頭の中にイメージが出来上がります。一文がきちんとわかれば、その先に続く長文読解に困ることはありません。
~ 一文の理解を大切にしよう ~
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Section5. 確かな文法力で正しいイメージが描ける。
目の動きは筆のそれと同じ。確かな文法力で、イメージ空間に正しい絵を描く。
高校の美術の時間に、ふたり一組になってお互いの顔を描いたことがありますが、相手が私の顔をあまりにぶさいくに描いたもんで、「私はそんな顔じゃないっ!」って言いましたら、「いや、見た通りに描いたっ!」と言われたことがあります・・・。:-(
ここではそんな理解の「ずれ」が生じないように、きちんと文法を使って文字情報「そのまま」を正しくイメージ空間に映像として描く方法を見ていきます。
私たちがリーディングをしている時に目の前に見えるのは、テキストに書かれている文字。
He is reading a book.この英文を見たままに書いても、
He is reading a book.当然 文字は文字のまま。

まずはスラッシュリーディングというスキルで、一文を小さな単位に切ります。どこで切るかはいろいろな考え方や方法がありますが、ここでは3つに切ります。
(1番目)He / (2番目)is reading/ (3番目)a book. //
(1番目)彼は/ (2番目)読んでいる/ (3番目)本を。//
では、この順番通りにイメージを作ります。
(1番目)He : 最初に男性の顔をイメージして、


日本語は「外から中心に向かう情報の流れ」であるのに対し、英語は「中心から外に向かって情報が流れる」言語なので、1番目のHeを中心に決めたら、そこから3番目のa bookに向かって視野を外に広げていけばいいのです。
実際のもっと複雑な文章も、全て文法の約束の流れに沿っています。文法が教えてくれるさまざまな種類の文のフローをマスターしてしまえば、頭の中で映像をさくさく作ることができるようになります。
~ 文法の順番通りに、目で単語をイメージ空間に貼り付けよう ~
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Section6.1回で速く読めるから、速くても1回で聞ける。
「正しい読み方」が、「正しく聞けて、書けて、話せる」への近道。
リーディング、リスニング、ライティング、スピーキング。4つのスキルの中でどれが苦手ですか?
一般的にこれらの難易度を決める要素としては、以下の2点が影響します。
①何度でも繰り返せるか。(回数)
②自分のペースで処理できるか。(スピード)
情報を受信するリーディングとリスニングを比べると、リスニングの方が難易度は高いです。一度しか聞けず相手のペースに合わせないといけないから。
情報を発信するライティングとスピーキングを比べると、スピーキングの方が難易度が高いといえます。言い直しは避けた方がいいし、相手を待たせられないから。
1回で読めない、いわゆる「戻り読み」は文法構造が分からない時に多く生じます。知らない単語は飛ばしますが、文法構造が分からないと意味がわからないので、意味を理解しようとして「戻り」ます。どんな文法構造に文章も一度でわかる文法力を付けてください。
どのスキルにおいても速く処理できるようになるには、まずはリーディングで練習をします。最初は自分のペースでいいので、絶対に戻り読みせず、文頭から1回で内容がわかるようにします。それが出来るようになったら多読をすることで、英語の処理スピードが上がり、リスニング、ライティング、スピーキングのクイック・リスポンスへとつながって行きます。
~ リーディングに磨きをかけ、残りのスキルを積み上げる ~
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Setion7. スピーキングはまずイメージして、それから単語と文法を使う。
相手の言いたいことも、自分の言いたいことも、すべては「イメージ力」と「文法力」。
スピーキングが出来ない理由に「文法を気にし過ぎるから」という「文法悪者論」がありますが、正確に話すためには文法は絶対に必要です。では、どうするか。
STEP1: まず、言いたい場面を頭の中にイメージ浮かべる。
STEP2: 次に、そのイメージを単語や文法を使って描写する。
最初に文法を使うのではなく、イメージしてから文法を使うべきだと思います。
情報を実際にやりとりするのは、英語だったりオランダ語だったり言語情報となります。しかし、その情報を頭の中で処理する時は、発信する前であろと受信した後であろうと、映像情報にした方が取り扱いが楽になります。ラジオより、テレビの方が理解しやすい理由でしたね。
リーディングやリスニングなど受信するときは、文法を使いながら映像化。
ライティングやスピーキングなど発信するときは、映像化してから文法を使ってみてください。
~ 難易度の高いスキルこそ、負担の軽いイメージを先に利用する ~
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。:-))
Lees*maar*Lekker 代表
名尾 葉 (NAO Yo)